Dr.ネルソンの「医学&タメになる」授業

益若つばさが「避妊リング」装着公開Youtubeを配信したことに対して、私が思うことをお話しします。

日本の避妊方法

日本人が利用している主な避妊方法の代表格は男性用コンドーム。
避妊方法のアンケートでは実に約8割の日本人がコンドームを”避妊方法”として使い、ついで多い避妊方法が「膣外射精」となっている。
それがこの何十年も変わらない、日本人がとっている主な避妊方法の割合だ。

日本にはこの他にも、低用量ピルや今回益若さんが装着した子宮内避妊具などの選択肢があるが、それらの使用率は1桁台、あるいはそれ以下に留まっており、発売から何十年も経っていても一向にその使用率が劇的に上がることはなく、避妊法の第一選択がコンドーム、ついで膣外射精が上位を占める状態はもう何年も続いている。

1.コンドーム

そもそも、避妊方法の中でコンドームは「避妊方法」としての成功率は他の避妊方法よりも低く、また間違った使用や装着するタイミングの違いや、劣化や破れの可能性も含んでおり、人によって避妊率に差が出てしまったり、確実性に欠けたりする。
安価で、より気安く使える避妊法として使われる同時に、性感染症予防のために重要な役割となっているという認識が正しいと思う。

ただし、コンドームさえ付ければ、性感染症を完全に予防できる訳ではない。なぜならば、多くの場合、コンドームを付ける前に、口でオーラル セックスや前戯を行うため、口から性感染症をもらってしまうケースも多い。

2.膣外射精

一方、膣外射精は、避妊方法として認められないほど、避妊率が低い。

当クリニックで妊娠中絶を受けられる方のなかで、膣外射精による避妊失敗は、多く見られる。膣外射精による妊娠率は、他にちゃんと存在している避妊方法と比べて非常に妊娠率が高く、膣外射精により「避妊した」という認識でいること自体さえ、とても危険である。

新しい避妊方法が広まらない原因①

▷圧倒的な情報不足

何故ここまでも、コンドーム以外の避妊方法が広まらないのか。

今回、益若さんが避妊リングを装着したことをYoutubeにアップしたことへの反響を見ると、その背景が見えたように思う。

一つは、圧倒的な情報不足。

避妊リングという存在をまず知らない。どうゆう形、大きさで、どうゆう仕組みで避妊することができて、また副効用(使う目的以外にある好ましい効果)が存在すること、どこで装着できるのか、費用は、どのくらいの期間使えるのか・・・みんな知らない。Youtubeを見て「こんなのあるんだ」「初めて知った」という意見がやはり多く目に止まった。

使うか使わないかは、女性自身のライフスタイルや人生プランに合わせて選ぶべきで、使わなきゃいけないものではない。しかし、まず知らなくては、選択したくても選択できない。

産婦人科を受診した時にその存在を知った人も中にはいるが、そもそも産婦人科受診へのハードルも高く感じる人もいる。では産婦人科以外の場で、一体いつ、知ることができるのか・・・。

▷低容量ピルの誤った知識

低用量ピルは避妊リングよりも知名度はまだあるが、その低用量ピルに関する知識が正しいものかどうかは疑問である。

低用量ピルは「副作用が強い」「いずれ不妊症になる」という認識は根強くある。確かに副作用は気にしなければいけない部分であるが、それはどんな薬も一緒だ。

例えば、ピルで一番懸念されている副作用である血栓症で考えれば、妊娠した方が、ピルを服用するよりも、血栓症になるリスクは、倍以上に上がるのである。血栓症を懸念して、必要以上にピルを恐れて、結局予想外の妊娠されたほうが、皮肉にも血栓症のリスクを上げてしまうのである。

そのような知見、知らない人がとても多い。

産婦人科で低用量ピルを処方するときには、ピルを処方するための問診をし、時には採血をし、内服した後の患者の様子や症状を聞きながら処方をしている。

そして最近では色んな種類の低用量ピルが発売されており、自分の体に合う種類を探し、選択することができるようになってきた。

「不妊症になる」は全くの間違いで、例えば数年後に妊娠しようと思った時、それまで低用量ピルを内服していた後に妊娠しようとする方が、低用量ピルを内服せずに過ごしてきた人よりも妊娠率が高いことを、どれほどの人が知っているだろうか。

新しい避妊方法が広まらない原因②

▷偏見

二つ目は、情報不足による偏見だ。
情報が足りない、正確でないことにより、偏見が生まれる。

先ほどの低用量ピルに関してもそうだ。低用量ピルや避妊リングなど、女性が主体で避妊しようとすると決まって「性に奔放だ」という偏見が根強く投げかけられる。

SEXにより妊娠するのは女性の体であって、男性の体には妊娠という現象は起こらない。女性が自ら避妊して何が悪いのか。

そうした偏見は多分、「妊娠したら困るほどSEXしている」という印象から来ているのだと思うが、産婦人科に居ると当たり前に分かるのが、必ずしも、妊娠する=SEXの回数が多い、ではないということだ。

もちろん、SEXの機会が多い方が少ないよりかは妊娠しやすいというのは言えるかもしれないが、1回のSEXで妊娠する人ももちろんいるし、長年不妊治療を続けている人もいる。それと同じで、子どもの人数が多い人に対して「お盛んですね」と扱われるような風潮も意味が分からない。

性教育の不十分さ

この2つのことが引き起こってしまう一番の要因は、性教育の不十分さだと思う。日本では学習指導要領上はSEXのことは教えられないことになっている。

そのため、学生たちはいきなり精子と卵子が出会うことだけを教えられ、詳しい妊娠経過や出産のことまで知る機会は公的にはほぼない。なぜ精子と卵子が出会うことになるのか?そこを伝えられないから、避妊方法も詳しく言えないし、間違った理解も生まれやすい。

高校の教科書にはコンドームと低用量ピルの比較が表になっている教科書もある。それを見ると、コンドームの箇所には「安価、手に入りやすい、副作用がない、性感染症予防に効果がある、切り口や爪で破れることもあるので注意する」などと書いてあるが、低用量ピルに関しては「やや高価、医師による処方箋が必要、服用を忘れると避妊効果が期待できない、副作用(気分不良、めまい、体重が増える、頭痛など)がある」と書いてある。(令和元年度、ある教科書から一部抜粋)

これで『低用量ピル試してみよう』と思う人は居ないと思う。

低用量ピルはコンドームよりも避妊率が高いことは書いてないし、月経を軽くする副効用があることも書いていない。そして、コンドームが他の避妊方法よりも避妊率が低いことは書いてないし、破損に注意するよう書いてあるのに、そうなった場合に「避妊効果が得られない」と書かれていない。低用量ピルの方には「服用を忘れると避妊効果が得られない」とまで書いてあるのに。

このように、例え教育の中に入っていても、それがどこまで正確で偏りのない情報かどうかも疑問が残る。

十分な情報量も、客観的な正確さも足りない中、子供たち、いや大人もまた、アダルトコンテンツを目にする機会の方が多いのが現状にある。

現代のこの情報社会の中で、不確かな情報やフィクションに溢れる以上に、公的に正しく、化学的な事実を学ぶ機会の方の比重を多くしなければならないのではないか。

日本の遅れた性教育の現状は、これ以上我慢できない。